投稿

2022の投稿を表示しています

PENNデザインスクールの作品集: Year End Show 2022

イメージ
 ペンシルバニア大学デザインスクールの2022年度 の作品集 の備忘録 建築学科のスタジオは、 インフラ整備 や生態系利用までも取り組んでいるのが印象的です。気候変動に対応した水辺空間利用に関するランドスケープとの合同 スタジオ など気になりました。 都市計画学科のワシントンDC:Poplar Pointを対象とした スタジオ では、水害に対して脆弱な黒人居留エリアのレジリエンス強化プランを提案しています ランドスケープのスタジオ は気候変動、生物多様性、水害などの社会課題に対応した作品が多数紹介されています。 建築+都市計画∔ランドスケープ全ての学科の学生が参加できるウェストフィリーの小学校を対象とした スタジオ ”Studio+: Public Schools as Equity Infrastructure”では、校庭を利用した食育やファニチャーのデザイン提案に留まらず学生が実物制作まで携わっていて、造園の実習を検討する上でも非常に参考になりそうです。

英国のランドスケープ系業務の需要と供給:UK’s Landscape Workforce

イメージ
 英国におけるランドスケープ関連のスキルや労働力などに関する現状と将来を整理した レポート の備忘録 先ず政策課題に関して以下の現状認識を示しています エネルギーや食糧の安全保障、気候危機、自然回復、経済発展など国際的課題において土地利用は中心的なテーマであり、ランドスケープセクターの活躍が期待される事。 気候変動の緩和と適応は今後の業務における最重要課題である事 開発に関する需要の中で生物多様性の改善と自然の回復、ネイチャーポジティブなどがますます重要になっている事 パンデミックの発生とそれに対応するためのワークスタイルの変化が、公共スペースの利用や緑地へのアクセスなど健康と福祉の空間整備のありかたを再考させる事 その上で、次の事項を指摘しています 英国では、地域によりランドスケープのノウハウのギャップがあり、それが気候変動適応や自然開発の実行を妨げている。 本ビジネスの供給量が不足しており、環境に配慮した土地利用を実施するための契約を断らざるを得ない状態 特に生物多様性と自然回復に関するスキルへの市場ニーズが高い 公共部門や大都市以外の地方で特にスキルの不足が深刻であり、地方部における適切な土地利用が実施できなくなるのではないか。 労働力の高齢化も課題 ランドスケープ部門は約246億ポンド経済波及効果があり、他の産業平均の2倍の速さで成長している。(2010年以降で10%に対して18%) この調査は、Landscape Instituteが中心となり実施したもので、ダッシュボードで各地域の状況が確認できるようになっています。 ダッシュボード:https://dashboard.landscapeinstitute.org/online-dashboard-public/ 示唆に富むレポートですが、締めくくりとしてp66示された「美学から多機能なランドスケープへの世代交代」「ランドスケープはこれらの課題に対して先導する準備ができているのか?」というコメントが刺さりました。 ”The landscape discipline’s generational shift from aesthetic to multifunctional, the historic demands of climate change and biodiversity, the risin

ビジョンドリブンなまちづくり:Greener City Fund/Grow Back Greener Fund

イメージ
 ビジョンドリブンな公園緑地整備に関する備忘録その2 ■Greener City Fund ロンドンは40%以上の緑地率を誇る緑豊かな都市です。 そのロンドンを国立公園都市” National Park City”とするために、 緑地率を2050年までに50%にするというビジョンが市長から発信されました。 そして、そのアプローチとして 2017年に緑化推進基金” Greener City Fund”が設けられました。 https://www.london.gov.uk/what-we-do/environment/parks-green-spaces-and-biodiversity/greener-city-fund この基金は以下の3つの分野に関してNPOなどに資金を提供します ・グリーンインフラ事業/ Strategic green infrastructure projects ・都市森林創出事業” London’s urban forest” ・コミュニティの植林と緑地助成事業” Community Tree Planting and Green Space Grants” この資金は、単に植栽整備に関する資金援助だけでなく、市内の樹木に関するデータベースの作成などにも活用されています。 そして、2021年からは新たに” Grow Back Greener Fund ”が開始されました。 これは、パンデミックにより市民の緑地の利用率が20%向上するなど緑地の重要性が高まっているにも関わらず、地域によっては緑地へのアクセスが不平等であること。 加えて、気候変動への対応策として緑地への期待が高まっていることが背景となり設立されたとの事です。 こちらのファンドも以下の様な取組みへの資金援助を行っています ・新たな緑地創出、緑地へのアクセスが徒歩10分以内になるようなアクセスの改善 ・樹冠カバー率の改善 ・特に貧困地域における多様な人々との協働事業 ・ロンドン市民に対するトレーニングやスキル開発のプロジェクトも含む create new green spaces, and improve the quality of and access to existing green space where Londoners live further than a 1

ビジョンドリブンなまちづくり-10 minute walk

イメージ
 先日、ちょっとした意見交換を行った際に話題となったビジョンドリブンな公園緑地整備に関する備忘録 ■10 minute walk (米国) https://10minutewalk.org/ 2050年までに全米市民の100%が徒歩10分以内で公園や緑地にアクセスできるようにする運動で2017年にプログラムを始動。 現在300人以上の市長が賛同を示しており、大きなムーブメントになりつつある。 【背景】 ・公園や緑地は人々の健康と幸福、気候変動への回復力、コミュニティの連携に置いて重要な役割を果たすが、米国市民の3人に1人は徒歩10分圏内に公園や緑地がない。(2800万人の子供を含む1億人以上) ・有色人種の多い公園は、その他と比較して平均して半分の大きさで、利用者密度が5倍になっている。さらに低所得者の多い地域の公園は高所得者エリアとして広さが平均1/4となっている。 ・全米の市民1000人を対象とした調査では、66%がコロナ禍に置いて公園へのアクセスがますます重要になり、これが改善されると生活の質が向上すると回答。 ・全米の市長の演説分析によるとコロナ禍で緑地政策が重要政策の上位に 【具体事例】 ペンシルベニア州ピッツバーグのBill Peduto市長は2030年までに全ての市民が公園まで10分以内でアクセスできるようにすることを宣言(2018年)。予算確保や管理プログラムを準備している。 コロラド州デンバーでは、10 minute walkの実現に向け、0.25%消費税増税が承認された。2019年にはこの資金が3750万ドルとなった。 【支援ツール】 市民が、自分の住むエリアにおいて徒歩10分圏で公園緑地にアクセスできる住民の割合などを調べることが出来るツール:https://www.tpl.org/parkserve

造園と調達(landscaping and supply chain)

 世界中のあらゆるビジネスでサプライチェーンの問題が深刻化しています。 LAマガジンの関連ブログ の備忘録 マンハッタンの公園整備工事では5ガロンの砂利用接着剤の入手に8か月かかった ファニチャー制作に必要な金属コストが2020年1月以来246%上がった プラスチック材料の値上がりとマイクロチップが入手困難になったため、潅水システムの提供が遅れている。 レンガメーカーはレンガを運ぶための木材パレットの入手が困難になっている パンデミックにより外国人労働力が不足しナーセリーが充分に稼働していない 灌漑システムの不足などにより、大型にする予定の苗を小型のまま販売してしまっている 従来半年前に発注していたプラスチックの鉢は1-2年前の発注を余儀なくされ、不足している。 などなど、様々な影響が出ているようです。産出地が限られているリン酸肥料も価格が高騰し問題になっていますね。 一方で、世の中に存在するランドスケープ関連製品の中には、廃棄する際に大きな負担になりそうな商品やマイクロプラスチックなど環境に害悪を与えるような製品も散見されており、Cradle to Grave(ゆりかごから墓場まで) という考え方はあまり意識されていないかなとも感じます。加えて、都市緑地の維持管理における剪定枝などの処理問題もあるかとおもいます。既存材料の有効利用や地産地消の調達、処理負担がかからない商品や管理機器の開発、そして緑を活用した暮らしによる環境負荷の軽減など、循環型社会システムの基盤となるランドスケープのアイディアが今後より求められるようになりそうです。

Landscape for 2030

イメージ
(引用:LIサイト)  前回に引き続き、気候変動への取組みネタで、英国のLandscape Institute(LI)から発行されている” Landscape for 2030 ”の備忘録 本書はLIで2008年に発効したLandscape architecture and the challenge of climate changeを更新したもの。 LIではその後2020年5月に 気候と生物多様性へのアクションプラン を発行している ランドスケープの専門家は特定の気候変動の課題に取組むだけでなく同時に複数の2次的利益を提供する代替手法を提供すべき 排出量削減のためには、新しい政策、アイディア、現場でのイノベーションが必要 本書では、公共広場からエコパークまで様々なスケールで気候変動に対応した低炭素な場所を作る施策を11のケーススタディを通して紹介 ランドスケープは緩和と適応の両方の役割を果たすことが出来る。そのためには、自然資本、経済資本、社会資本の相互作用に対する理解が必要(natural, economic, and social capital ) 具体的なアプローチとして、各種施策における生態系サービスのトレードオフや、気候変動リスクに対するNbS適応、リサイクル材の利用、地域種による維持管理時エミッションの削減、再生エネルギー開発支援、非車両交通インフラの提案、バイオセキュリティーの検討などが可能 自然資本、経済資本、社会資本(natural, economic, and social capital )に関しては宇沢弘文氏の社会的共通資本(自然環境、社会的インフラ、精度資本)にも通じる考え方ですね。 ケーススタディは既出のプロジェクトが多く目新しい感じはありませんが、日本のランドスケープ系のレビューであまり注視されない、廃棄物削減や持続可能な水管理、リスクシミュレーションなども丁寧に解説している点が印象的でした。

気候変動に対するデザインへの要望

昨年末に公開されたASLAの調査” Significant Increase in Demand for Climate Planning and Design Solutions Over Past Year ”の備忘録 米国で気候変動に対応した計画・デザインへの要望が強まっており、2021年10月に563人のランドスケープの専門家を対象にアンケート調査を実施 気候変動によるインパクトで顧客が注目している項目は以下の通り Increased duration and intensity of heat waves Increased intensity of storms Increased spread and intensity of inland flooding Loss of pollinators, such as bees and bats Changing / unreliable weather, or “weird weather.” より持続可能なまちをつくるためには、気候変動に関する規制を強めadvocacy by designのアプローチが必要 多様なインフラ整備など温室効果ガスを削減するプロジェクトは経済にもプラスとなる ASLAのCEOは、ランドスケープの職能として、炭素を貯蔵し、海面上昇や洪水・干ばつなど気候変動による影響からの回復力を高める nature-based solutionsを提供すべきであると主張している。 洪水や干ばつ、生物多様性、ヒートアイランドなどへの解決策のニーズに関して、詳細は次のサイトで公開されています: https://www.asla.org/2021climatesurvey.aspx 温室効果ガス削減に関しては、 Climate Positive Design  の実践も重要だと紹介されており、5つの戦略と解決策が紹介されています。こちらは、ほとんど昔から言われていることと変わらなく、ちょっと首をひねるような内容もありますが、ご参考まで The top five strategies 炭素を吸収する公園やオープンスペースの整備 木陰の創出など樹木の配置による建物のエネルギー使用量削減 ハビタットの再生による、バイオマス量の増加と侵入種の排除 芝生の排除による、維持管理エネルギーの削減 土壌の保全によ

美しい棚田地域づくりへの取組み

イメージ
ここ数年間取り組んでいる、棚田地域での活動が一区切りつき、先日地元十日町市で 成果報告会 を実施しました。 新たな活動の方向性も議論できました。 数年前に、こんなコピーがありました 美しいものが美しいのではない。  美しく使われているのが、 美しいのだ。 棚田も美しく使われているからこそ、多くの人が美しいと共感してくれるのだと思います。 棚田地域へのスマート農業適用においてもそのような視点を大切にしたいと思いました。

Green New Deal Superstudio

 米国では、雇用創出と気候変動への対応、経済的不公平の改善を目指す「グリーンニューディール」に関する提案(HR109)が2019年に議会に提出されています。 気候変動による自然災害の頻発化・甚大化により、各地で人的・経済的な被害が深刻化しており、これに対応するためには、革新的な政策が必要との事で議会でも多くの議論が行われています。 気候変動は社会的公正や経済活動と深く関わっており、低炭素社会への移行によって影響が大きいコミュニティに対して格差が広がらないような支援も必要になります。 このような動向を背景として、2020年8月~2021年6月に米国の90を超える大学が参加して” Green New Deal Superstudio ”が開催されました。 最終的には小規模なものから地球規模のフレームワークまで、また、インフラ強靭化、脱炭素社会構築、流域治水、雇用創出、社会的公平性の確保、環境回復など様々なアイディアが 671ものプロジェクト として提案されています。 下記は、セントルイスのワシントン大学の教官による活動成果報告会となります。 大きな社会課題に対して横断的に取り組み、オープンにディスカッションする文化は強みですね。

グリーンインフラDIY

イメージ
 ニューオーリンズの住民が自らコミュニティの水害対策を進めているとの 記事 の備忘録 FEMAの水害リスクマップに含まれていない空白地区での洪水が多くのコミュニティで問題になっていた ウォーターワイズ ではニューオーリンズ全域で洪水マップ調査を実施し、リスクの高い地域を特定 ウォーターワイズでは市民が自分の庭にGIを設置する方法を学ぶことのできる教育プログラムを提供 ニューオーリンズの様々なGIプロジェクトを訪問するGIツアーを実施(コロナ後はバーチャルで実施) このようなプログラムを135人が修了し、メンバーは対策案をまとめたコミュニティルックブックを作成 ルックブックを活用し資金獲得活動を実施 其の後、コミュニティ初のバイオスエルの設置、雨水タンク、レインガーデン、透水性舗装などを展開するとともに、緑地を拡大 People Power Stopping Flooding in New Orleans (nextcity.org) 教育プログラム提供→対策シナリオ検討→ファンドレイジング→施工→運営と普及。という流れがスピーディーに展開しているのが印象的な取り組みです