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多様性と心の健康/Species richness is positively related to mental health

Landscape and Urban Planning 211号に掲載予定の”Species richness is positively related to mental health – A study for Germany”の備忘録。ドイツの研究者らの研究です。 ■論文:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0169204621000475 【概要】 社会経済的要因やその他の自然特性を制御しながら、ドイツ全土の種の多様性と人間の健康との関連の分析を行った。 人間の健康の指標として、ドイツの社会経済パネル( SOEP )のメンタル( MCS )とフィジカルヘルス( PCS )スケールを使用。3万人対象。 種の多様性に関しては、植物および鳥を対象とした その結果、植物と鳥の種の多様性はメンタルヘルスと正の関係があることが示された。 一方、植物や鳥の多様性とフィジカルヘルス(身体の健康)との関係性は見られなかった このような知見は、人間の幸福促進に自然を活用( nature-based solutions )することの重要性を示す。 自然保護地域は、生物多様性保全への貢献だけでなく、健康のハブとしても評価されるべき。 日本でも川崎市などで、緑量と精神疾患の関係をスタディした論文などがありますが、本論文はドイツ全土を対象とし、また、標準的な健康指標を用いている点が評価できるかと思います。 このように、空間的なデータと健康ビックデータを組み合わせ分析する事で、今後まちづくりの議論がより具体的に進められることが期待されます。生態系サービスを活用の効果にもっと注目が集まると良いですね

都市居住と虫嫌い

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養蜂をやっていると、ミツバチがはちみつを生み出していることを知らない大人が少なくないことに驚くことがあります。 緑あふれる集合住宅の提案では、虫が増えない方法はないか、といった質問がよく出ます 海外でも公園管理の方から「チョウチョは好きだけど芋虫は嫌い」な人が多く、苦情が出て困るというたぐいの話をよく聞きます このように、現代社会に広くみられる虫嫌いの理由を、進化心理学的な視点から提案・検証した東大の研究者らの論文 ”Why do so many modern people hate insects? The urbanization–disgust hypothesis” の備忘メモ 昆虫をはじめとする陸生節足動物に対する否定的な認識が世界的にみられる原因を進化心理学的観点から検証 2つの仮説を立て13,000人を対象としたオンライン調査で検証 1つ目は、嫌悪という感情が、病原体回避行動を生み出すための心理的適応であるという「嫌悪感の病原体回避理論」。都市化により野外よりも食事や睡眠を行う室内で虫を見る機会が増え、その結果虫に対する嫌悪感が高まるという経路 2つ目は、エラーマネジメント理論に基づくもの。偽陽性(感染症リスクがないのに避ける)のコストよりも偽陰性(感染症のリスクが高いのに避けずに感染)のコストが圧倒的に高いため、都市化により自然に対する知識が失われた人は避ける必要がない多くの虫まで嫌悪するという経路 調査により経路1及び経路2が支持された 虫嫌いの背景には、病原体の感染を避けようとする過去の進化的圧力によって形成されたメカニズムが、都市化により強化されたことが示唆された 「野外もしくは野外を感じさせる条件で虫をみること」「虫の知識を増やし、種類を区別できるようになること」が虫嫌いを緩和できる可能性を示した 都市化により「室内の虫に対して強く嫌悪する」「虫を区別できないと多くの虫を嫌悪する」という2つの要因が広範な虫嫌いを生み出すという説明は大変興味深い指摘と思います。 いきものの名前を知ることに加え、エコシステムの中での役割を理解できるような環境デザインを意識していきたいと改めて思いました。 雑誌名 Science of the Total Environment 論文タイトル Why do so many modern people hate in...